連載「メジャーのものさし」 第23号
休養日は、どこに書いてあるか
前夜、日本人選手が所属する4球団は3勝1敗でした。ブルージェイズが6対3、カブスが2対1、ドジャースが3対2で競り勝ち、ホワイトソックスだけがアストロズに2対6で敗れました。白星は3つ。けれど、その夜に安打を放った主力の日本人選手は、ひとりもいませんでした。
村上宗隆は4打数無安打、鈴木誠也は3打数無安打。そして大谷翔平と岡本和真にいたっては、成績表に打数の行そのものがありませんでした。
「0打数」と「行がない」は違う
0打数と、行がないことは、まったく別です。 0打数は、出場して打席が回らなかった記録。行がないのは、そもそも出ていないという意味です。この日の大谷翔平と岡本和真は、ベンチにいました。
〈記事図1をここに挿入 → 20260905_記事図1_前夜の個票.png〉
ここが、毎朝カードを刷る工場のいちばん地味な仕事です。ある選手が休養だったのかどうかを、どうやって確定するのか。
最初に見るのは、1試合ごとの成績表です。でも、これだけでは足りません。データの反映が遅れていて、本当は出ていたのに行が空いて見えることがあるからです。だから工場は、もう一段下の出場選手表まで下ります。その試合に名を連ねた全選手を、ひとりずつ照合する。大谷翔平と岡本和真の欄に、打撃の数字も投球の数字も一切ないことを確かめて、はじめて「ベンチ」と書きます。
この照合を、前夜なら9試合ぶん、四十人を超える出場選手に対して回します。時間にすればわずかです。でも、この一手間が、別人を一面に載せる事故を止めています。
名前は、記憶で書くと入れ替わる
なぜそこまでするのか。前の朝、あぶない橋を渡りかけたからです。
ある投手の選手番号を記憶だけで引いたら、808967という番号を佐々木朗希のものだと思い込んでいました。実際は、山本由伸の番号でした。名前と番号は、記憶で書くと静かに入れ替わります。気づかずにカードを刷れば、別人の一面がそのまま世に出ます。
だからこの連載は、数字も名前も記憶から書きません。毎朝、実物のデータに下りて、ひとつずつ突き合わせる。今朝も、4球団のスコアと、出場した選手の一覧を、当日の朝に測り直しました。
光った人がいない夜に、何を刷るか
一面は本来、その夜いちばん光った選手を探して刷るものです。けれど昨夜のように、誰ひとり快音を残さなかった夜もあります。
そんな朝に、たいして打っていない選手を無理やり主役へ据えて大きく見せるのは、この番組のやり方ではありません。光った人がいない夜は、光らなくても起きた事実を刷ります。3つの白星が、その事実でした。
きょうの一面は、選手の名前ではなく、4つの球団のスコアが主役です。負けた1試合も、同じ盤の上に小さく残しました。都合のいい3勝だけを見せて、1敗を隠さないためです。
〈記事図2をここに挿入 → 20260905_記事図2_4打者の完全版.png〉
もうひとつのカードには、本塁打の数だけを並べました。30、29、28、そして24。この表には、その裏にある打率や出塁率まで、全部を置いてあります。カードが結論なら、この表は種明かしです。
派手ではありません。でも、休養だった選手をあやまって主役に据えるより、ずっと正直です。
正直であることを、毎朝いちばん上に置く。それがこの連載『メジャーのものさし』の約束です。
本記事は個人が作成した非公式のものであり、MLBおよびMLB Advanced Mediaとは提携・関係ありません。
数値は2026-09-05朝時点。Data: MLB Stats API