連載「メジャーのものさし」 第20号
長打率は、単打も数えている
長打率.495。鈴木誠也と村上宗隆、ふたりのこの数字は、いま小数点以下までぴたりと同じです。
けれど、この二人を「同じ打者」と呼ぶ人は、たぶんいません。打率は鈴木誠也が.278、村上宗隆は.217。6分1厘の開きがあります。同じ長打率にたどり着いているのに、打率はこれだけ違う。長打率という物差しは、いったい何を測っているのでしょうか。
長打率は、打った安打の塁打を全部足して、打数で割った数字です。単打は1塁、二塁打は2塁、本塁打は4塁。塁を多く踏むほど値が上がります。ここで見落としがちなのは、単打の1塁ぶんも、この合計にちゃんと入っているということです。長打率という名前でありながら、その中には単打の分も混じっています。
では、その単打の分を抜いて、「長打で稼いだ余分の塁」だけを取り出すには、どうすればいいか。長打率から打率を引きます。これがISO(Isolated Power=純粋長打力)という指標です。鈴木誠也は.495から.278を引いて.217。村上宗隆は.495から.217を引いて.278。同じ長打率が、引き算をした瞬間に、二つの違う数字に分かれます。
村上宗隆のISOは.278。主力4打者の中でいちばん高い値です。大谷翔平が.249、岡本和真が.216、鈴木誠也が.217で続きます。打率だけを見れば、村上宗隆の.217は4人でいちばん低い。ところが、打率が拾わない「長打の大きさ」だけを取り出すと、順番はまるごと入れ替わって、村上宗隆が先頭に立ちます。
これは、打率という物差しのクセをそのまま映しています。打率は、本塁打も単打も同じ「安打1本」として数えます。柵越えの一発も、内野をゆっくり転がる安打も、打率の上では区別されません。だから、単打が少なく長打の多い打者は、打率という物差しの上では、実際より小さく見えてしまう。村上宗隆の打率.217という数字は、彼の長打の大きさについては、ほとんど何も語っていないのです。
ISO.278という値は、打席に立つたびに、単打の1塁ぶんを超えて平均.278の塁を余分に稼いでいる、という意味になります。打率が4人で最も低い打者が、この「余分の塁」では大谷翔平の.249を上回って先頭にいる。打率とISOは、同じ打撃を別の角度から見た、二枚の写真のようなものです。
きのう、鈴木誠也が24号を打ちました。同じ日、村上宗隆はヒットこそ出ませんでしたが、四球を3つ選んで塁に出ています。二人はタイプの違う打者です。片方は高い打率の上に長打を重ね、もう片方は打率が伸びない中で長打と四球を積む。それでも長打率という一点では、ちょうど同じ高さに並んでいます。物差しを一つ変えるだけで、選手の姿は大きく変わって見えます。
明日の朝、村上宗隆の打率.217という数字を見かけたら、その隣にISO.278も置いてみてください。低い打率と、4人でいちばん高い長打力。その二つが、同じ選手の中に同居していることが分かります。一つの数字で決めつけず、もう一つの物差しを重ねてみる。それを毎日つづけることが、この連載『メジャーのものさし』の約束です。
Data: MLB Stats API / 成績はいずれも2026年9月2日時点。ISOは長打率から打率を引いた純粋長打力(Isolated Power)。非公式・MLB非関連の個人アカウントによる記事です。