連載「メジャーのものさし」 第18号
打った打球は、平均すれば何になるはずか
月曜は、定点観測の日です。現役の日本人打者4人の「実際の成績」と「期待値」を、毎週同じ型で並べます。今週見るのは長打率。ただし、二つの長打率です。
一つは、いつもの長打率(SLG)。実際に打った塁打を打数で割った、結果の数字です。もう一つは、期待長打率(xSLG)。これは打った打球の速度と角度から、「その打球は平均すれば、どれだけの長打になるはずか」を計算した数字です。守備のうまさも、球場の広さも、その日の運も抜いて、打球の中身だけを見ます。
4人の実際と期待を並べます。大谷翔平は実際.532、期待.564。鈴木誠也は実際.492、期待.429。村上宗隆は実際.499、期待.489。岡本和真は実際.447、期待.429。この並び方のなかに、一つだけ、他と向きの違うものがあります。
4人のうち3人は、実際が期待値と同じか、それを上回っています。とりわけ鈴木誠也は、実際が期待を63ポイント上回る。打球の中身が示す以上の結果を、いまグラウンドの上で出しているということです。村上宗隆と岡本和真も、実際のほうがわずかに高い。
ただ一人、大谷翔平だけが逆でした。実際.532に対して、期待は.564。打球の中身が示す数字に、結果のほうがまだ32ポイント届いていません。これは打率でも同じで、実際.281に対して期待は.290。打球の質をまとめたxwOBAという指標も、実際.387に対して期待.399。三つの物差しがそろって、同じ向きを指しています。
この「届いていない」を、どう読むか。ここが今日の定点の芯です。期待値に実際が届かないというのは、打っている打球は十分に鋭いのに、結果がまだそこへ追いついていない、という状態です。ヒットになってもおかしくない当たりが、正面をついたり、いい守備に阻まれたりしている。裏を返せば、打球の質が落ちない限り、結果はいずれ数字のほうへ寄っていく余地がある。30本塁打を打っている打者に、まだ上があるかもしれない。期待値は、そう読める場所に立っています。
去年までなら、こういう話はできませんでした。「調子が上がらない」「もう少し」という印象を、数字で確かめる手段がなかったからです。xSLGやxwOBAは、打球一つひとつの速度と角度という、隠しようのない事実からできています。だから、目で見た印象ではなく、打球そのものに「この選手はまだ出しきっていない」と言わせることができる。物差しが一つ増えると、同じ成績表がまるで違って見えてきます。
今週の見どころは、この32ポイントの差が縮むかどうかです。大谷翔平の結果が期待値のほうへ寄っていけば、それは「打球はずっと良かった」ことの答え合わせになります。鈴木誠也の上振れが続くのか、それとも実際が期待値のほうへ戻ってくるのか。数字は毎週動きます。来週の月曜、同じ4人の同じ2列を、また並べます。
先週と比べて、だれの差が開き、だれの差が縮んだか。その動きだけを、毎週このコーナーは静かに追いかけます。一週間の熱狂ではなく、シーズンを通した一本の線を見るために。それがこの連載『メジャーのものさし』の約束です。
Data: MLB Stats API / 4打者の成績は2026年8月31日時点。非公式・MLB非関連の個人アカウントによる記事です。