連載「メジャーのものさし」 第17号
出塁率.423は、何を待っているか
打率.293、出塁率.423。この二つの数字のあいだには、.130の開きがあります。西田陸浮という、まだ名前の知られていない打者の、今シーズンの成績です。
日曜は、昇格を待つ選手の話をする日です。メジャーの一軍ではなく、その一つ下。3Aで呼び出しを待っている日本人選手を、この連載は週に一度たずねます。今週は、シカゴ・ホワイトソックス傘下、シャーロット・ナイツの西田陸浮。25歳の外野手です。
まず、数字を置きます。今季の3Aは、86試合で打率.293。これだけでもじゅうぶんに良い数字ですが、この連載が本当に見たいのは、その隣にあります。出塁率.423。打率との差、.130は、四球でできています。今季の四球は68個。打てなかった打席でも、塁には出ている。打率という物差しは、この四球を一つも数えません。
なぜ出塁率を見るのか。得点というものは、まず誰かが塁に出るところから始まるからです。塁に走者がいなければ、どんな長打も、一点にしかなりません。出塁率は、その「攻撃の入口」に、その選手が何割の確率で立てるかを教えてくれます。打率は、四球で歩いた打席をなかったことにして計算します。だから、四球の多い打者ほど、打率は本当の姿より小さく見える。西田陸浮の.293と.423の開きは、その小さく見えていた分を、もう一度おもてに出した数字です。
塁に出たあと、西田陸浮にはもう一つの仕事があります。走ることです。今季の盗塁は22個。長打は多くありません。本塁打はまだ1本、長打率は.333。けれど、彼の持ち場は柵の向こうではなく、塁と塁のあいだにあります。出て、進んで、還る。得点は、その積み重ねでできています。四球で歩き、盗塁で二塁へ動く一つの走者は、スコアボードの上では、二塁打を打った走者と同じ場所に立っています。
物語を、少しだけ戻します。西田陸浮は今季、下から順に階段をのぼってきました。2Aのバーミンガムでは11試合で出塁率.434。そこから3Aへ上がり、この5月には、ついにメジャーの舞台を踏みます。5月25日、対ツインズ戦でのデビュー。その初打席で、いきなりヒットを打ちました。それから12試合を戦い、6月にまた3Aへ戻ります。メジャーでの通算は、12試合で打率.241。一度、上の景色を見た打者が、いまはもう一度、下の球場で塁に出続けている。そういう夏です。
同じホワイトソックスの一軍には、村上宗隆がいます。本塁打29本、けれど打率は.221で、価値の大半は長打と四球から来ています。長打で試合を動かす村上宗隆と、出塁と足で試合を動かす西田陸浮。同じ組織のなかに、まったく違う二つの武器がある。片方はいま一軍にいて、もう片方は昇格を待っている。同じ白いユニフォームが、二人を待っています。
今季の3Aでの三振は78、四球は68。この二つがほとんど同じ数だというのも、西田陸浮の打席の顔です。振り回して三振を増やすのではなく、球をよく見て、歩けるときには歩く。その選び方が、.423という出塁率を静かに支えています。派手な数字ではありません。けれど一軍が終盤にほしがるのは、しばしばこういう、確実に塁に出られる一人です。
昇格がいつ来るのかは、誰にもわかりません。けれど、出塁率.423という数字は、その日が来るまで、消えずに積み上がっていきます。打率だけを見ていると、.293の外野手が一人いる、で話は終わります。物差しをもう一つ持っておくと、そこに「塁に出続けている一人」が見えてきます。それが、この連載が毎週日曜に、まだ一軍にいない選手をたずねる理由です。
呼ばれた瞬間に、その名前をすぐ思い出せるように。名前が広く知られるより先に、数字のほうを見ておく。それがこの連載『メジャーのものさし』の約束です。
Data: MLB Stats API / 西田陸浮の成績は2026年8月30日時点。非公式・MLB非関連の個人アカウントによる記事です。