連載「メジャーのものさし」 第13号
145個と144個は、ほんとうに互角か
水曜は「数字の学校」。カードで使う指標を、ひとつずつ手にとって見ていく日です。きょうの教材は、奪三振。ただし「何個奪ったか」ではなく、「どれくらいの密度で奪ったか」という話をします。
まず、数を並べます。山本由伸の今季の奪三振は145個。今永昇太は144個。その差は、たった1個です。
奪三振の数だけを見れば、二人はほとんど並んでいます。シーズン終盤に向けて、どちらが先に150個に届くか。そんな見方も、もちろん間違いではありません。数の積み上げには、それ自体の物語があります。
けれど、ここに投球回という別の情報を足すと、景色が変わります。山本由伸が145個を奪うのに投げたのは151回3分の2。今永昇太が144個を奪ったのは145回3分の1。同じくらいの数でも、今永昇太のほうが少ないイニングで奪っている、ということです。
これを一本の物差しにしたのが、奪三振率です。9イニング投げたら何個奪う計算になるか、に直した数字で、投球回の長さをそろえて比べられます。山本由伸は8.60、今永昇太は8.92。数では山本由伸が上でしたが、9イニングあたりの密度では、順番がそっと入れ替わります。
もう一人、加えてみます。投手としての大谷翔平です。奪三振は95個で、二人より50個ほど少ない。けれど投げたイニングも85回2分の1と短いので、奪三振率にすると9.98。9イニングでほぼ10個という計算になります。数の列ではいちばん下にいた人が、率の列ではいちばん上に来る。
ただし、奪三振率が高いことが、そのまま良い投手だという意味になるわけではありません。この物差しが見ているのは、三振を取る密度だけです。四球を出したか、安打を打たれたかは、ここには入っていません。じっさい、奪三振率では今永昇太が山本由伸を上回りますが、防御率は山本由伸の2.61に対して、今永昇太は3.78。相手を抑えるという結果のほうでは、山本由伸が前に出ています。同じ二人でも、どの物差しを手に取るかで、また順番が変わります。
どちらが正しい物差し、という話ではありません。数は、シーズンを走りきった量を映します。150個や200個という大台は、投げつづけた時間の証明です。いっぽう率は、一球一球の鋭さを映します。短い登板でも、その日の空振りの取り方がそのまま出ます。見たいものによって、手に取る物差しが変わるだけのことです。
きょうも数字は動きます。山本由伸と今永昇太の145対144は、次の登板でまた入れ替わるかもしれない。大谷翔平は100奪三振まであと5個で、次に投げれば率も数も更新されます。そのたびに私たちは、数で数えるか、率で数えるか、どちらの目で見るかを選び直すことになります。
同じ145個と144個を、互角と見るか、そうでないと見るか。物差しを一本足すだけで、答えは変わります。一つの数字で決めつけず、別の物差しでもう一度見る。それが、この連載『メジャーのものさし』の約束です。
Data: MLB Stats API / 2026-08-26時点 / 非公式。数値は山本由伸・今永昇太・大谷翔平の2026年シーズンのMLB Stats API実測値(奪三振・投球回・奪三振率)です。MLBおよび各球団とは無関係の、非公式の個人アカウントです。