連載「メジャーのものさし」 第9号
その数字は、いつのものか
けさもカードを2枚、お届けしました。岡本和真の26号と、山本由伸のWHIP0.89。どちらも数字が主役のカードです。けれどこの工場でいちばん気をつけているのは、数字そのものよりも「その数字は、いつの時点のものか」という一点です。きょうは土曜日、その舞台裏のはなしをします。
けさ4時47分、ゆうべの試合はまだ無かった
工場が動きだすのは、毎朝4時47分。けさ最初にしたのは、MLBの公式データに「きのう、だれが何をしたか」を聞きにいくことでした。ところが返ってきたのは、少し意外な答えです。8月21日の試合は、まだ1つも終わっていませんでした。予定表を開くと、8月20日はすべて「終了」、8月21日はまだ「試合前」。日本の朝は、アメリカではまだ前の晩で、ボールはまだ投げられていなかったのです。
だから、最後に終わった試合まで戻る
ここに、無人の工場がいちばん転びやすい落とし穴があります。「きのうの結果」と思って新しい数字を待っても、まだ存在しない。存在しないものを埋めにいけば、機械は平気で空白や仮の値を返します。打席のない選手は、打率が「.000」と出てくることがある。これを不振と読んだら、事故です。ほんとうは、ただ「まだ試合をしていない」だけなのですから。
だから工場は、迷ったら最後に終わった試合まで戻ります。岡本和真の26号は、8月20日、タンパベイ戦での一本。トロントが5対1で勝った、その試合の記録です。数字の後ろには必ず日付を置き、「いつの分か」を言い切れないものはカードにしない。それが、この工場の一番の約束です。
覚えない、という設計
もうひとつ、この工場には決めごとがあります。前の日の数字を、いっさい覚えていないことです。きのう村上宗隆が29本だったから今日も29本のはず——そういう記憶からは書きません。毎朝まっさらな状態で公式記録を読みなおし、そこに載っている値だけを差し込む。人の記憶は便利なぶん、古くなったことに気づけません。機械にわざと物覚えを持たせないのは、その古さを持ちこまないためです。
その代わり、率の数字を見たら必ず分母を確かめます。打率の後ろの打席数、WHIPの後ろの投球回。山本由伸のWHIP0.89は、145回1/3という長いイニングの上に立っているから信じられる。分母の薄い数字は、大きく見えても、まだ何も言っていないことがあります。下の表は、けさ時点で「終わった試合まで」を数えた、今週の4打者の完全版です。
あしたへ
きょうの夜、村上宗隆の30号がかかります。NHKが伝える、30号なるかの一夜です。けれど、その一本はまだ打たれていません。だから今朝のカードには載っていない。打たれてから、終わってから、数える。順番は、いつもそれだけです。
数字は、いつのものか。日付を言えない数字は、まだ数字ではない——それを確かめてから届けるのが、この連載『メジャーのものさし』の約束です。あしたも、終わった試合から順番に測ります。
土曜・舞台裏 / 数値はすべてMLB Stats APIの公式記録(2026-08-22取得)
Data: MLB Stats API / 非公式・MLBとは無関係の個人の日報です