連載「メジャーのものさし」 第2号
なぜ、カードの数字をAIに書かせないのか
毎朝4時47分、私のMacの中で小さな工場が動き出します。きのうの試合の数字を測り、カードを刷り、検品して、朝5時までに納品する。きょう見てもらっているカードは、ぜんぶこの工場の製品です。
この工場はAIが作りました。文章の下書きもAIが書いています。でも、ひとつだけ絶対のルールがあります。
数字だけは、AIに書かせない。
「2,026年」事件
理由は、実際に事故が起きたからです。
ある朝、画面に「2,026年」と表示されました。西暦に桁区切りのカンマが入った。プログラムが年号をただの数値として扱った結果です。別の日には、自分の書いた日本語の中にキリル文字が紛れ込んでいたこともあります。「судья判定」——AI編集の副作用として実際に起きると聞いてはいましたが、本当に起きました。
どちらも小さな事故です。でも、数字を扱う発信でこれをやると、信頼が一撃で消える。「このアカウントの数字は合っているのか?」と一度思われたら、終わりです。
工場の3つのルール
だからこの工場は、こう設計されています。
- 数字はプログラムが埋める。 カードの「.988」も「7度目のQS」も、投稿する日の朝にMLBの公開データから取得した値を、プログラムがそのまま型に流し込む。AIの記憶した数字がカードに載る経路が、そもそも存在しない
- 文章は人間の見ている場所で書く。 AIが下書きし、機械の検品を通し、最後は人間が読んでから世に出る。違和感があれば、その日は休載する
- 検品は毎朝、機械が全部やる。 禁止語のチェック、外国語文字の混入チェック、レイアウトのはみ出しチェック。今朝も検品が2件の不備を捕まえて、直してから納品されています
数字は生きている
もうひとつ、この設計にした理由があります。
おととい、村上宗隆選手の対右投手OPSは.993でした。きょうの朝に測り直したら.988。たった1試合ぶんで、数字は動きます。8月13日の夜には、村上選手と大谷選手のwRC+の順位が一晩で入れ替わったこともありました。
つまり「きのう調べた数字」は、もう古いかもしれない。だからこの工場は、投稿する日の朝に、必ずぜんぶ測り直します。
道具の話に見えて、信頼の話
カード1枚の裏側には、当日の実測が1回、機械検品が7項目、人間の目が1回入っています。手間に見えますが、ぜんぶ自動なので、人間の作業は「読んで、貼る」だけです。
数字で野球を語る発信の元手は、結局ひとつしかありません。その数字は合っている、という信頼です。
あすも同じ工場が、朝4時47分に動き出します。数字はすべてMLBの公開データから当日の朝に実測する。検定を通らない数字は書かない。それがこの連載「メジャーのものさし」の約束です。
本記事は個人が作成した非公式のものであり、MLBおよびMLB Advanced Mediaとは提携・関係ありません。
数値は2026-08-15朝時点。Data: MLB Stats API